再生医療とは、機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対し、患者様ご自身の細胞や人工的な材料を利用し、損なわれた機能の再生をはかるものと定義されています。再生医療は大きく3つ（１種、２種、３種）に分類され、特に、安全性や管理体制に高い基準が求められる1種はiPS細胞などであり、2種は体性幹細胞、3種は体細胞を加工するものと位置づけられています。当院が行う再生医療( SVF 、MFAT、 PRP)は2種に、PDF-FDは３種に分類されます。
当院では、SVF 、MFAT、PRP は変形性膝関節症に対して、 PDF-FDはその他の関節や筋・腱に提供しています。患者様ご自身の血液、脂肪などから得られた細胞を関節内に注射することで、自然治癒能力を高め、組織の修復を目指します。再生医療はご自身の組織を使うため、アレルギー反応や副作用が少なく侵襲が少ない治療と言えます。
安全性について（最終更新日：2025年9月1日）
2025年8月、他施設において外部加工による細胞を用いた治療中に死亡事故が発生し、厚生労働省より緊急命令が出されておりますが、当院ではこの方法は実施しておりません。
当院の脂肪幹細胞を用いた再生医療（SVF・MFAT療法）につきましては、患者様ご本人の脂肪組織を院内にて衛生管理を徹底しながら新鮮な状態で処理し、そのまま治療に使用しております。
当院では法令や学会ガイドラインを遵守し、外部委員会による審査を受けております。
今後も院内の安全管理体制の強化と、必要な情報公開を進めてまいります。
再生医療の概要
脂肪幹細胞を用いた再生医療
SVF（Stromal Vascular Fraction）
ご自身の脂肪組織から酵素処理（分離・濃縮洗浄）をして得られる間質血管細胞群（SVF）を関節内に注射する方法です。
MFAT（Micro-Fragmented Adipose Tissue）
ご自身の脂肪組織を酵素処理（分離操作）をせず、細断して得られる自家脂肪組織由来微小細断脂肪組織片（MFAT）を関節内に注射する方法です。
血液を用いた再生医療
PRP（Platelet Rich Plasma）
ご自身の血液から成長因子を抽出し、多血小板血漿(PRP)を膝関節内に注射する方法です。
PDF-FD(Plasma Derived Factor-Freeze-Dry)
ご自身の血液から成長因子を抽出し、凍結乾燥(フリーズドライ)した凍結乾燥血漿由来因子(PDF-FD)を関節内や筋・腱に注射する方法です。
再生医療の位置づけ
再生医療によって、軟骨や半月板に置き換わる組織が完全に再生されるわけではありません。無くなってしまった組織を作ることは不可能です。
そのため、変形性関節症が進行して完全に軟骨が削れてしまう前に治療を受けられたほうが効果も期待できると言われています。
主に期待できる効果
- 痛みの改善
- 炎症の軽減
- 組織の早期修復
- 進行の抑制
慢性疾患で行っている治療で効果が得られない場合や、手術を避けるための手段または、手術に代わる方法として、再生医療を選択する方もいます。
他の治療との比較
| 治療方法 | 内容 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 再生医療 | SVF、MFAT、PRP、PDF-FD | 従来の治療では効果が得られなかった方に対して、新たな選択肢となる | 保険適用外のため、高額 |
| 運動療法(リハビリ) | 自宅リハビリの指導と経過観察（関節周囲筋力強化・関節可動域改善） | 関節周囲環境の改善（再生医療との併用で相乗効果が期待できる） | 効果が出るまで時間がかかる。間違った方法で行うと症状が悪化することがある |
| 薬物治療 | 消炎鎮痛剤 | 痛みがあるときに服用することで、痛みが軽減される | 長期の使用によって胃腸障害や腎障害が起こることがある |
| ヒアルロン酸注射 | 潤滑を改善して関節機能を改善するとともに、定期的継続で痛みの緩和が期待できる | 関節内注射による痛みや注射部位の疼痛、関節内感染の可能性もある | |
| ステロイド剤 | 炎症や痛みを比較的早く改善することができる | 効果は一時的であり、頻回投与にて関節破壊進行する事もある。ヒアルロン酸と比べ関節内感染を起こしやすい | |
| 手術療法 | 人工関節手術 | 歩行時痛改善が最も期待でき、O脚などの変形も矯正可能 | 深部静脈血栓症や感染などの合併症。耐用期間があり交換のため再手術の必要がある |
センター長挨拶
「手術治療」と「切らない治療」の二刀流を目指して
私は大学病院に勤務していた頃、医師としての人間性を磨きながら、診断や治療に関する知識と技術の向上に努めてまいりました。大学病院では、難しい症例や特別な全身管理が必要な患者さんの治療を担当させていただきました。その経験を地域の医療に活かしたいという思いから、2020年11月に当院へ赴任いたしました。
大学病院では「手術を受けたい」という患者さんが多く来院されますが、地域の病院では「できれば手術を避けたい」という声を多く耳にします。治療には段階がありますので、手術治療が最適の場合もありますが、手術以外の方法を望まれる方が多いことを実感しました。
また、手術が必要ないケースであっても、従来の治療では十分な改善が得られず、「もう少し良くならないの？」といったご要望をいただくこともありました。そうした背景から、2022年4月にPRP療法を導入し、2024年9月には脂肪幹細胞を用いた再生医療（SVF・MFAT）、同年11月にはPFC-FD療法を開始いたしました。
治療効果には個人差がありますが、選択肢が増えることで多くの患者さんに喜んでいただいております。現在、毎年およそ100人の患者さんが再生医療を受けられており、大きな合併症もなく安全に行えています。
「手術は避けたい」「今の治療では物足りない」と感じておられる方は、どうぞお気軽にご相談ください。
再生医療に関するお問い合わせ
月〜金曜 AM 9:00～12:00 PM 14:00～17:00 / 土曜 AM 9:00～12:00
